思い出

思い出

風は人の間を淋しく流れていた悲しいものの間を淋しく流れていたどうすることも どうしようもなく流れていた昔々様々あって悲しい出来事の時も西から東へ 南から北へ木々とすれ違ったり土と遊んだりしながら無邪気にもの達の間を流れて行ってもう 還ってく...
思い出

残像

父が死んで父は檻に閉じ込められてしまった私は又私の過去を失ってしまった死んだ人間が記憶の中で生きている若くなったり歳を老いたりまだ素っ裸で居間を歩いている絵の無い映像になって私を睨んでいる
思い出

私の町

冬になるとモックモックと雪が降り続き地球の中の一点にそれも小さい小さい一点に閉ざされて誰も誰あーれも口を独り言ちているのでした
思い出

金魚

大きな世界に有りながら20cm四方の世界しか知らない与えられなかった知ることの少ない空間そんな中であなたは何を見ているのだろうおぞましさと何年たっても変わらない世界であなたは光の箱の中で隠れる場所の無い空間で悲しさに包まれることはないのだろ...
思い出

放課後の秋

学校が終われば遠くの紅葉の山もまっかな真っ赤な夕日に囲まれて帰り道の友達もだんだんといなくなり田圃の畦道の上で案山子が声をかけてくれるのでしたがそうして 秋が呟き去っていきました
思い出

雨と母さん

雨に濡れた日は母さんが よく頭を拭いてくれました放射能で頭が禿げたとか何とか言ってどっかの名前入りの手ぬぐいで坊主頭を丁寧に拭いてくれました禿げとか 放射能とか今では言う人もいませんが雨の降る日は ふと頭を撫でてみたくなるのです
思い出

予兆

葉の落ちた叢林の中をよく歩いたものでした葉の厚く敷きつめた斜面はいつも柔らかく 温かくいつまでも遊んでいたいものでしたいくつもの丘を越え又 向こうの小山を越えれば何かありそうな気がして いくつもいくつも超えていって 又同じ風景に出会う時もう...
思い出

冬の夜

みぞれが老いた父の町に降る生に対する何かを耐えるとか ひもじいとか切ない思いを湛えてじっと降るものなのですそうすれば叱られた時などは暗闇にポッと点いた人家の灯りがやけに恋しく照らされた看板は 私と意思疎通をしようもなく建っていて打ちひしがれ...
思い出

ウンカの親

ウンカが突然そっと私の肩に止まったいつもの廃液の油に飛び込んでは もがき死んでいくウンカの中でこのウンカは右左に身震いして肩に止まったままだこの落ち着きなさは死んだ私の母のようだ何だか私にじっとしがみつく
思い出

1945年、夏、日本

人が突然いなくなるのだ手を繋いでいたのに喚きの中で 逃げ惑う中でそして日が変わり捜しまわるのだあの一緒に必死だった縁者を幾日も幾日も訪ね歩いてそして記憶の中のあの瞬間の土地で手骨を拾うのだ記憶が結びつける足骨を拾うのだ