思い出

思い出

ウンカの親

ウンカが突然そっと私の肩に止まったいつもの廃液の油に飛び込んでは もがき死んでいくウンカの中でこのウンカは右左に身震いして肩に止まったままだこの落ち着きなさは死んだ私の母のようだ何だか私にじっとしがみつく
思い出

1945年、夏、日本

人が突然いなくなるのだ手を繋いでいたのに喚きの中で 逃げ惑う中でそして日が変わり捜しまわるのだあの一緒に必死だった縁者を幾日も幾日も訪ね歩いてそして記憶の中のあの瞬間の土地で手骨を拾うのだ記憶が結びつける足骨を拾うのだ
思い出

羨望

秋も深まり天気の良いのが長く続かないある日ほっかむり 作業着姿の老人がリヤカーを俯きながら引いていたそれに付き添うようにあまり綺麗でない中型雑酒犬が鎖に繋がれ歯をむき出して引くのに絡んでいるそこに私は捨ててきた羨望する信頼関係を見つめていた
思い出

悲しい

青空の端の方で鳥は初めて飛んだ時あんなに高くを飛ぶと思っただろうか私も生まれて子供をやっている時こんな人間になると思っていただろうか未来は不明不明は悲しい
思い出

赤トンボ

赤トンボが人の高さの空を歩いていくさらに高くをツバメが横切るとても彼等のように豊かな一生にはなれないせめて花による同じ境遇の虫を狙う暖かい日もある辛く羽根に雨が当たる日もある彼等に神様はいないたまに優しい風のベッドがあるだけだ
思い出

悲しみの八月

遠い八月の暑い日にそこに残された人々は苦しいことも悲しいことも解き放たれて 佇んでいるもう全てから解放されて永遠の記憶だけで生きていくそれは静寂の森行き交うだけの街もう瞳は何も語れない
思い出

真実

自然を観察しよう顕微鏡で見極めよう花を昆虫を岩石を周囲をそこに一つの意志の美の形が有るはずだから忘れてきたものを思い出し小さな小さな真実を感じる
思い出

道草

道草は遠い昔の思い出を湛えて皆みんな一緒だった淋しさなどはひとかけらも無い温かな時の流れだった
思い出

アベベの蛇口

アベベは走った鬱蒼としたジャングルでなく人人人のジャングルを国のため自分のため最期まで一人で走った頂点に立った時欲しかったのは丸い飾りでなく家族への蛇口だった
思い出

輪廻

私がいて母がいて父がいて子供がいて友達がいて挨拶していく人がいて隣人がいて人間がいてそして母が去り父が去り私が去り子供が去り優しさの中に温もりの中にあなたは残りそして又継いでいくあなたはなんと偉大な人間なのだ