思い出

予兆

葉の落ちた叢林の中をよく歩いたものでした葉の厚く敷きつめた斜面はいつも柔らかく 温かくいつまでも遊んでいたいものでしたいくつもの丘を越え又 向こうの小山を越えれば何かありそうな気がして いくつもいくつも超えていって 又同じ風景に出会う時もう...
思い出

冬の夜

みぞれが老いた父の町に降る生に対する何かを耐えるとか ひもじいとか切ない思いを湛えてじっと降るものなのですそうすれば叱られた時などは暗闇にポッと点いた人家の灯りがやけに恋しく照らされた看板は 私と意思疎通をしようもなく建っていて打ちひしがれ...
思い出

ウンカの親

ウンカが突然そっと私の肩に止まったいつもの廃液の油に飛び込んでは もがき死んでいくウンカの中でこのウンカは右左に身震いして肩に止まったままだこの落ち着きなさは死んだ私の母のようだ何だか私にじっとしがみつく
夕照り

ネズミ

粘着マットに ネズミは捕らわれ鼻まで接着した状態はもう逃れられない鳴き声はこの時のためなのか何処までも 切ないせめて河原などで最後にとという思いはビニール袋に入れられて車に積まれた取るに足らないものを野辺の送りにとハンドルを握る心は感じてい...
朝まだき

夢の故郷

秋の晴れた日私の街にふらりと現れたのはキルギスの商人でした見るからに異国の装いなのに違和感が無かったのは余りにも上手く日本語を話すので誰もが親しみを覚えるからでしたしかし 彼は五歳から異国を巡るれっきとした商人でした一番最初に旅に出た時は祖...
供養

小さな駅の物語

北の大地の小さな駅は昇降客もめっきり減って無人駅となった何代も続く蜘蛛の孤独者は縁もゆかりも無い飛んでくる者を押さえて生き血を吸っている朝食のある時もあれば夕食の無い時もある親はほとんど知らないチラッと見たような気もするあれから夏冬同じ景色...
供養

秩序

神に祈るしかなかった世の中に身を置いた人生は余りにやり場のなくそうして去っていった人々に冷たい雨が降っていたこれでもかの仕打ちにそれらを平然と回る地球に秩序の本質を見た回って回って降り飛ばせ人も悲しみも
思い出

1945年、夏、日本

人が突然いなくなるのだ手を繋いでいたのに喚きの中で 逃げ惑う中でそして日が変わり捜しまわるのだあの一緒に必死だった縁者を幾日も幾日も訪ね歩いてそして記憶の中のあの瞬間の土地で手骨を拾うのだ記憶が結びつける足骨を拾うのだ
思い出

羨望

秋も深まり天気の良いのが長く続かないある日ほっかむり 作業着姿の老人がリヤカーを俯きながら引いていたそれに付き添うようにあまり綺麗でない中型雑酒犬が鎖に繋がれ歯をむき出して引くのに絡んでいるそこに私は捨ててきた羨望する信頼関係を見つめていた
供養

レクイエム

川べりの夜の街頭に一匹の蛾が所在なく一晩中飛ぶように生命は全て魂となって自由に駆け巡る善悪も無く魂は自由だもう何も後ろは無く前だけを見つめるだから何処までも飛んで行ける