夕照り

夕照り

我々くり返し くり返し 人は傷つく過ちは 運命に組み込まれた法則それは 逃れられないいつも陽は昇り 陽は沈む長い夜は本質を変えていく戻れる日は来るのか拡散が最終形でしかないのか
夕照り

神が去っていく日絶対の神と至高の神が争うのかどちらの神が 唯一と言っていたのか神の本心とは人が遠くに行ってしまってもう呼びかけは聞こえないいつからか人が争って踏み越えていくのを見た
夕照り

入口いつか人間は煙となり石灰となり元素となって精神の上の汚れを落とし苦しめた心は滴り落ちて風に吹かれ軽快に永遠と交わっていく気ままな気体は分け隔てなく固体の時と交わり宇宙は見分けがつかなくなった
夕照り

魚屋の水槽水槽の中のヒラメ一匹もう筋肉も萎えて涙腺も枯れた目は私を何時までもじっと観ている
夕照り

寒風の蟹茹でられて食われた毛蟹の甲羅は手足の無い体になって意志強く目を剥き出し観ている歯を食いしばった顔とはいへ寒風は甲羅を変色させていった
夕照り

最後人は営々と歴史を作り 文化を作り子々孫々伝わることを望む宇宙は逆らう如く闇夜は頑として乗り越えていく但し失望の一瞬死の一瞬それが唯一の教えでもあり全てを同一にしていく
夕照り

赤とんぼ赤とんぼはあんな大きな目をして何を警戒しているのかしら今日も いともたやすく捕まった
夕照り

今年の冬アルミニウムの空は高さを半分にしてトンビも低く飛ばざるを得ませんでした雪も例年になく弱弱しくあの猛々しい時代の人間を育てることは不可能になってしまいました
夕照り

老いたる日老人よ 朽ちていく木よ年老いたその瞳の内に若かりし頃の記憶が残り 郷愁が残り遠ざかる日々 優しかった者達の顔の思い出が日々の物思いとなり 聞き耳をたてる私はその侘しさの重荷に耐えざるを得なくなることを観念する
夕照り

最期空が白くなり始め音が消える世界は時間が伸びて猫の威嚇の声牛の哀訴私は最期の時間に落ちていった